研究開発


免疫機能とガレクチン

 レクチンの働きは幅広く、様々な生命現象に及んでいますが、その代表が免疫系における働きです。C-型レクチンに属するコレクチンは、抗体に依存しない先天性免疫に関わる生体防御因子として注目されています。また、セレクチンもC-型レクチンに属する膜蛋白質ですが、セレクチンは白血球と血管内皮細胞との接着に関わり、白血球がいわば高速道路である血液循環から目的地である組織へ降りる(血管外に浸潤する1))際に必要な分子です(図2)。

 ガレクチンにも免疫機能に関連した様々な働きがあることが分かっています。私達が興味を持って調べている、タンデムリピートタイプに分類されるガレクチン- 8とガレクチン- 9の場合も、様々な機能を持つことが知られるようになってきましたが、やはり最も重要と思われるのは免疫反応に関わる働きです。

 ガレクチン- 8は、好中球(白血球の中でも食細胞と呼ばれるグループに属し、細菌などを細胞内に取り込んで破壊する機能を持っています)がセレクチンによって血管内皮細胞に弱く結合した後、さらに強固に接着する段階に働いているようです。好中球はこの後、血管内皮細胞の間をすり抜けて組織に侵入(浸潤)して病変部位にまで移動します。組織内で好中球などが移動するためには、組織の細胞を取り巻いている細胞外基質と呼ばれる物質を分解する必要がありますが、好中球による細胞外基質の破壊にもガレクチン- 8が関与している可能性があります。

 好中球の血管内皮細胞への強固な接着は、好中球表面のインテグリンと内皮細胞表面のICAM(intercellular adhesion molecule)の結合によるものです(インテグリンとICAMはともに細胞膜に組み込まれた糖蛋白質)。インテグリンは通常、結合活性を持たない不活性型として存在していますが、ガレクチン- 8がインテグリンの糖鎖に結合することによってインテグリンの活性化が引き起こされます。組織内で好中球が移動するためには、細胞外基質を分解する必要があり、MMP(matrix metalloproteinase)と呼ばれる一群の蛋白質分解酵素がこの分解に関わっています。MMPも分解活性を持たない不活性型として細胞から分泌されますが、ガレクチン- 8は MMPの活性化も促進することが分かっています。

 白血球は、病変部位で作られる物質(走化因子)に呼び寄せられるようにして血管から組織内に浸潤して行きます。私達が興味を持っているもう1つのガレクチン、ガレクチン- 9は、好酸球(好中球と同様、食細胞に属し、アレルギー反応などに関わっていることが知られています)に対して走化因子として働くことが分かりました。

 ガレクチン- 9は好酸球の遊走を選択的に促進しますが、他のガレクチンは好酸球走化因子としての活性を全く、あるいはほとんど持っていません。また、この活性には糖鎖結合ドメインが2つ繋がったタンデムリピートタイプの構造が必要で、2つの糖鎖結合ドメインは同じ、あるいは極めてよく似た構造の糖鎖と結合することも分かっています。

 最近、ガレクチン−9の新しい機能に関する実験結果がハーバード大学のグループ(Prof. Vijay Kuchroo)から報告されました。このグループが発見したTim-3は、分化したCD4+Th1 cellやCD8+ Tc1 cellに特異的に発現し(CD4+Th2やCD8+Tc2 cellには発現していません)、自己免疫やアレルギーの調節に重要な役割を果していると考えられています。彼らの最新のデータによると、ガレクチン−9はTim-3の生理的なリガンドであり、ガレクチン−9はTim-3陽性細胞の細胞死を誘導することによって自己免疫反応などを抑制する可能性があるということです。

 ガレクチンは細胞内蛋白質としての性質(ジスルフィド結合、付加糖鎖、分泌シグナルを持たず、一般的にN-末端がアセチル化されている)を備えていますが、一部は非古典的な経路で分泌され、サイトカインなどと同じように細胞間情報伝達因子として機能していると考えられています。しかし、ガレクチンが他の細胞間情報伝達因子と根本的に違っているのは、1つのガレクチンが性質の異なる多種類の分子と相互作用できる点です。サイトカインやホルモンなどは、1種類あるいは同一ファミリーに属する少数の受容体にのみ高い親和性で結合し、その受容体の活性化を引き起こします。一方、ガレクチン(一般的にレクチン)は糖鎖を認識して結合しますが、糖鎖構造に対する選択性には幅があり2)、また結合相手の糖鎖構造も不均一です(例えば、特定の糖蛋白質の特定の部位に結合している糖鎖を分析しても、通常、多種類の糖鎖が検出されます)。従って、ガレクチンはサイトカインなどとは比較にならないほど多種類の分子を受容体として利用する可能性を持っており、今後も新たな受容体とこれに関連した作用が見出されるものと思われます3)

1) 動物の体に細菌などの病原体が侵入すると、これを攻撃して生体を守るために、血液中の白血球が血管から出て感染部位に集まってきます。この時、血液中を流れている白血球は、まず感染部位に近い血管の内皮細胞(血管の内張りをしている細胞)に弱く結合して内皮細胞の上を転がり始めます。セレクチン(特に、E- セレクチンと P- セレクチン)は、白血球表面の糖蛋白質の糖鎖と結合してこの弱い接着を引き起こします。

2) モデル糖鎖を用いて糖鎖結合性を調べると、複数の糖鎖に対して同等の親和性を示すことがあります。しかし、実際の膜糖蛋白質などに結合する場合は、糖鎖だけではなく蛋白質部分とレクチンの相互作用や糖鎖のコンフォメーション(糖鎖のコンフォメーションが親和性に影響を与える)、あるいは細胞膜における存在状態などの影響も考える必要があります。

3) 私達はガレクチン(特にガレクチン−9と−8)を治療薬として利用するための研究開発を行っていますが、その過程でガレクチンが多様な作用/作用点(標的)を持つことが分かってきました。この特質は糖鎖−蛋白質相互作用によるもので、これまでの蛋白質−蛋白質相互作用を基本とした一般的な常識(細胞間情報伝達因子の作用に関する常識)に当て嵌めるのは難しい面があります。ガレクチンは幅広い生理作用を示しますが、これは無秩序な作用を意味するわけではなく、本来生体内で機能している生理活性物質として、生物機能をある好ましい状態に導くために必要な調和の取れた一連の作用と理解できます。